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スペースRデザイン
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一宇邨にまつわるインタビューシリーズ
第3弾ではついに一宇邨の生みの親、建築家の中村享一先生にお話を伺ってきました。

建物自体がひとつの生命体。快適さの理由はここにありました。

一宇邨は生き物に近い。
『一つ(一宇)の村(邨)』を意味する建物名からも、いわゆる強固に作られた頑丈なハコではなく、細胞のような小さな単位の組み合わせである生物をイメージしてもらうほうが、一宇邨の説明としては合点がいきます。
コンクリート以外の接合部はすべてビス工事のみで固定され、インパクト一本で分解ができます。室内の仕上げは300mm単位の木板を組み合わせたもので、各部屋の大きさや出入り口の変更も自由自在。階段の場所も変えることができるし、キッチンが移動式だった時もあるのだとか。


▲コンクリートブロックを使った施工


▲キッチンも以前は移動式でした

一宇邨は、もともと中村さんが自宅として設計した建物。自宅の設計を機に、”ものづくりとしての建築”を考えたことに端を発します。建築業界で働き、ホテルや大型施設、個人住宅などの設計に携わるなかで、”商売道具の箱”としての建築に違和感を感じはじめたそう。究極の住まいのカタチを求め、「とことん快適性を突き詰める」ことを、中村さんは模索し始めます。

もう1点、家づくりにおいて「構造・機能ともに50年もたせる」ことに、中村さんは重要なポイントをおきました。

「求められる住まいの形は、時代やまわりの環境によって変化します。50年前と今とでは、住まいの形が全く違うように。それにともなって、機能も更新やメンテナンスがされ続けなければ、時が経つほど快適さは失われてしまう。行きつく先は、解体もしくは空き家です。一方、一宇邨は、建物の形態や設備の配置、部屋の広さなどが変更できるように設計しました。大家族、核家族、今の様なシェアスタイルにも適応できます。たとえ、もう使わない、となってもインパクトで解体して、木材として再利用が可能。マイナスの資産にならないから、気持ち的にも快適です(笑)」


▲床は木板に分解できる

誰にとっても快適であり、どんな条件にでも適応できる柔軟性がある家。
建築を生業としてきた中村さんにとって、一宇邨は”理想の建築像”を追い求める壮大な実験場なのです。

『メタボリズム』という考え方をご存じでしょうか。建築や都市の計画において、新陳代謝(メタボリズム)の仕組みを組み込み、将来の増減築や改変への対応を見据えた設計をしようというものです。1960年頃、菊竹清訓や黒川紀章など若手の建築家によって打ち出されました。

「メタボリズムの思想から受けた影響は大きいです。時代や住まい手によって更新されていく建築という考え方は一宇邨に通じます。ただ、それを現代で再考したとき、新しく現れた『環境』というキーワードの必要性を感じました」


▲後からでもつなげるように配線は収めていない


▲地下階とつなげるための階段を追加

一宇邨を見たときに誰もが印象に残るであろう、ダイニング、2階廊下、天井を形作っている楕円形。長軸が南北軸にそって設定され、季節ごとに異なる日光の傾斜を計算し、常に自然光が差し込むように設計されています。それ以外にも挙げるときりがないくらい、「周辺との関係」を意識した細部の積み重ねによって、一宇邨は成り立っています。気候や周囲の環境などから土地環境の特徴を読み取り、条件をうまく利用した快適な住まいのつくり方を追求する。古くから「家相学」として伝えられている考え方です。


▲天窓は季節ごとに差し込む光の角度をはじき出し、常に光がはいるように設計されている

「シェアハウスというよりも長屋に近い」


▲お互いの知人を招いての食事会

シェアハウスとして運営して約5年。退去をしても福岡を訪れる際に遊びにきたり、友人を紹介しあったり、別の土地でルームシェアをはじめたり、一宇邨がきっかけとなった繋がりは生まれ続けています。住まい探しや事業の拠点選びにおいて、経済的な視点で判断されがちな建物の価値。一方で、住まいに求める精神的なものも大事にしている一宇邨は、その2つをいい塩梅で成立させています。それが”ほんとうの快適さ”をうみ、構造も機能も維持されていくのです。

「確証はないけれど、”よさそう”ってこともやってみています。これは大家の特権ですね。どこまでできるだろうって、ロマンを感じます。」


▲インタビュー当日、たまたま居合わせた方も交えて、部屋の成り立ち談義がはじまりました。

一宇邨のことを楽しそうに語る中村さん。また一つ、住まいのカタチに可能性が見えました。

文章:梶原

中村享一氏
1951年日本近代建築発祥の地、長崎市飽の浦生まれ。建築家。一宇一級建築士事務所代表。一宇邨長。長崎都市遺産研究会事務局長。芸術工学博士。
会員:日本建築学会・Docomomo Japan・産業考古学会・日本産業技術史学会。

E7-project:一宇邨のもとになったプロジェクト。施主である「宇宙人」にとって快適な住まいを考える物語です。

一宇一級建築事務所


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