「この部屋はリノベーションですか?」と良く聞かれます。
「リノベーションですよ。」と僕は答えます。
2007年、「ライフスタイルデパートメントの創出」をコンセプトに、7人のデザイナーによる11室のリノベーションを行ったプロジェクト。山王Rプロジェクト。第一期リノベーション企画として吉原住宅とひかり生活デザインがコラボレーション。3室完成させました。そのうちの1室、303号室がwaiting中です。
思い起こすと私が弊社に入社して最初に関わったお仕事がこのお部屋でした。2007年の6月。僕が加わった時はすでにテーマは決まっていて、これから具体的な内容を詰めていこうとするところでした。
テーマはというと、「残すリノベーション」。現状の部屋にある隠れた魅力、古いものが持つ趣を最大限に引き出すこと。残すモノ、壊すモノ、新しくするモノをじっくりと吟味することで廃材を最小限に抑えること。現代の暮らしに必要最低限な機能、水廻りやネット環境などは整えること。
両社でじっくりと話しこみ、ひとつひとつ丁寧に確認し進めていったことを思い出します。
型板ガラスや引き戸の取っ手、旧ロゴのINAX製洗面台など随所に40年前のパーツをそのまま残しています。格子のガラス引戸や木目プリント板が貼られた扉。もともと和室だった室内の天井は、木板の天井を残しオイルステインで塗装。
そして新品はというと、例えば洋式便器は何か懐かしさを感じさせるかわいいフォルム。タオルリングやペーパーホルダーなど機能と装飾のバランスのとれた、長く使われ続けている建材、いわゆるロングライフ建材をチョイス。そして床材は市松模様のフローリング。市松模様は浴室のタイルにも繋がり、地味に、簡素に、唯一の装飾的な部分であります。
いわゆる「レトロ」という言葉だけでは納まらない。「リフォーム」という言葉では伝えきれない。「リノベーション」という言葉がしっくりきます。
福岡市内にあるどのリノベーションルームよりも、この部屋の印象は地味です。見た目も色使いも、間取りも。デザインも。ほとんどすべて。
しかし、じっくりと触れていただくとその良さに気づいていただけると思います。
流行を追わない、飾らないリノベーション。ロングライフリノベーションを。
スペースRデザイン キタザキ