第1回 福岡ビンテージビルカレッジ レポート

『第1回 福岡ビンテージビルカレッジ』開催概要

テーマ ファッションから生まれるビンテージ「私のVINTAGE LIFE」
講師: 瀬下黄太氏(AMP GALLERY & CAFÉ・アトリエてらた/プロの遊び人)
日時: 2012年12月16日(日)15:00~17:30
会場: 山王マンション 1F 特設会場
まとめ: 吉原 勝己

はじめに

山王マンション「エンジョイ!レトロビル リノベーション文化祭」も2日目のまとめのイベントを迎えました。文化祭はリノベーション4室完成の見学会に、9軒のパン屋さん、36件のフリーマーケット、音楽トークなどのステージイベントをおこない、2日間で500名の方々にレトロビルを体感していただきました。1日目は勉強会「リノベーション フォーラム」で終えましたが、今から古い建物を考えるためのカレッジです。福岡のレトロビルファン・リノベーションファンはもちろん、全国から60名の方々が山王マンション1Fの特設会場に集まられました。

私たちは、このようにビルストック文化を広げようと、2004年以来リノベーション完成時には見学会に合わせて市民のみなさんと古い建物のあり方を考える勉強会をおこなうことを常としてきました。2012年の今、私たちも「リノベーション」を学び続けた結果「ビンテージビル」という概念が生まれましたが、福岡のまちに「ビンテージビル」を広める私たちのビジョンの中で、会場の皆さんと考えを深めることを楽しみに今回の準備をおこないました。

本カレッジの構想

現在の日本では、人口減少、景気減退、建物の過剰建設という矛盾の中、建物の需給バランスは崩れ空家の増加に歯止めがかかりません。それは、福岡のビルでも空室の増大というかたちで影響がでています。そしてこれが進むとスラム化・廃墟が待ち受け、まちの活気に水を差す状況がすでに全国各地で起きています。一方で私たちが進めているビンテージビルプロジェクトでは、築古にもかかわらずストック活用の活動で魅力的物件へと生まれ変わるビルも次々に出ています。それは、古くから存在するまちの資産である建物に、まちに根差した「ビンテージビル」として育てる思想を持ち込んだことがきっかけでした。

そこでこの場では、各領域の「ビンテージ」の文化性を感じ、考えてみたいと思います。これから、会場の皆さんとともに未確定の概念である「ビンテージビル」について考えを深めたいと思います。

第1回カレッジの目的

カレッジは4回シリーズ、「起・承・転・結」の構想でおこないます。第1回は「起」。講師は今回のリノベーション プロジェクトで401号室のデザインを担当した瀬下君です。もともと、エレキギター・ジーンズのビンテージマニアであり、今回の部屋にもディスプレイとしてその宝物が展示され印象的でした。私たちも数々のリノベーションを見て来ましたが、彼らが生み出すデザインは完全なオンリーワン。未知の空間デザインを体感することができる部屋です。現代アートを感じさせながら、懐かしく居心地が良い、経験したことが無い不思議な空間です。

「瀬下君のどんな背景が、こんな部屋を作らせるんだろう?」興味はそこから始まりました。


『第1回 福岡ビンテージビルカレッジ』
ファッションから生まれるビンテージ「私のVINTAGE LIFE」

講師自己紹介

ギャラリー&カフェ、オーナー兼デザイナー兼ミュージシャンでプロの遊び人。福岡市出身在住。吉野ヶ里「AMP GALLERY & CAFE」 、福岡「アトリエてらた」の代表。

博多のラトルズ「THE GOGGLES」のギター担当と巷で噂の1968年型サイケデリックバンド「Strawberry Chocolate’s Surf Club Band」のVO & Gを担当。基本PUNK(精神的に)。PUNKレコード屋~音楽事務所~レコード会社~洋服屋等。

瀬下君よりビンテージギター・ジーンズ紹介

ここに持ち込んでもらったビンテージエレキギターと最近のエレキギターの音色の違いを聞かせてもらいました。なるほど、微妙な世界ですがビンテージはよりやさしく、よりやわらかく、ヒューマンな感覚であることを会場の皆さんで確認しました。

ビンテージジーンズは、はく訳にはいきませんが、ジーンズへの愛情とそれを手にするまでの興味深い物語を語って頂きました。

マニアとイノベーション

この話から、彼が相当なレベルのマニアであることがわかりました。職業にされていたくらいですから当然でしょうね。ここで感じたのは、人一倍好きなことには自然にオンリーワンの世界が作られます。もし、その人が何かに挑戦しなければならない時、イノベーションの発想が必要な時に、人には負けないほど好きな世界があれば、それと課題を結びつけるのが近道です。瀬下君が自分の大好きな世界を老朽ビルの空間に落とし込んだ時、築45年の建物に「リノベーション」というかたちのイノベーションが起こったんですね。

それでは、会場への設問が出される前に、まずはグループに分かれてアイスブレイクです。

グループトーク「あなたの自慢できる趣味は?」

会場の60名が6グループに分かれ、各自の自慢話で盛り上がってもらいました。それはそうですよね。自分が好きなことをしゃべる時は誰でもいい顔になります。砕けた内容に会場は大盛り上がり。30分でも面白いお話が飛び出て皆さん打ち解けたようです。そして、各グループからユニークな趣味を発表してもらいましたが、仙台から来られた方から「今、自作のピザ窯でピザ焼きに凝っているんだよね~。」とのお話がでました。

趣味と設問を組み合わせよう

そこで、司会より会場に向けお題を出しました。ビンテージビルの基本ソフト「人のつながりをピザで生み出してみましょう!」。そこで、先ほどの方へのヒアリングをもう少し進めました。すると、「ピザ窯はみんなで耐火煉瓦を積めば4日くらいでできるんですよ。」意外な答えです。「へー!」そこで、いきなりイメージが広がりました。

趣味からビンテージビルへのイメージ

老朽ビルでも新築ビルでも屋上に上がれるビルはありますが、ほとんど使われていない「もったいないスペース」です。そんな屋上で「ビルの人たちでピザ窯づくりワークショップ」を日曜日×4回=1カ月で作り、完成をピザパーティーで祝う。自分たちで作ったピザ窯のピザは美味しくて当然ですよね。

一緒に食すれば、人のつながり度UPは間違いありません。少ない労力で、少ない費用で、もともと使われてないスペースを生かして、つながりが生まれる。しかも、ビルを見に来た人は、屋上のドアを開けてピザ窯を見た瞬間「みんなでピザを焼けるんですか!」と想像は膨らみますよね。ピザ窯はビルにコミュニティがあることを示す「アイコン」として永い間機能することになりそうです。これだけの人が知恵を出すと、こんな思っても無い答えが出てくるんですね。

老朽ビルでもピザ窯に興味を持つ人が集まり始めれば、そこから自然に人の動きが始まるのではないでしょうか。それは、やがて人のつながりとなり、その積み重ねがまちへとつながる。今日会場の皆さんと体験したように、このような思考がビンテージビル文化への扉を開くのかもしれません。

「エンジョイ!ビジネス」の話

このように、ビンテージの世界には個人の楽しみが、多くの人を巻き込む効果が付いてきます。もしかするとビンテージの概念でビジネスに取り組むことは、楽しさをベースにした仕事を生み出すのかもしれません。

私たちは、このような楽しみから始まる仕事の概念を「エンジョイ!ビジネス」と呼びたいと思います。ここでは「ビンテージ ビジネス=エンジョイ!ビジネス」という仮説が生まれました。「なぜ、瀬下君はあの部屋が作れたのか?」すでに彼は「エンジョイ!ビジネス」を実行されていたのでした。

民藝の話

もう一つ、民間で建てられた何の変哲もない老朽ビルが、ある日突然魅力あるビルに変身することを私たちは何度も経験してきました。なぜ、こんなことが起こり得るんでしょうか?実は身近なところでそれを見聞きしたことがあります。それは、義理のお爺さんがある県の民藝協会の会長をしていたのですが、私はその家に遊びに行くのが大好きでした。その家には、鬼がお布施をしているユーモラスな掛け軸「大津絵」や、古い和菓子の型、アフリカの原始的な木彫りなど、最初は気味悪いのですがずっと見ているうちに徐々に愛すべきものに変わるのです。

そして、「民藝」の歴史をお爺さんから聞くうちに、民間のB級品がある時から芸術品に変わる文化の変革であったということでした。思い返せばそれは、文化におけるイノベーションの実例でした。

私たちの活動に、民藝の歴史を学び「文化変革の必要十分条件」という理解が加われば、民間のB級ビルがある日ビンテージビルになり得ることを確信しました。


第1回のビンテージ ビルカレッジでは、今後を考える上でいろいろなヒントが出て来ました。次回、「承」を楽しみにしたいと思います。

注:「大津絵」「鬼の寒念仏」 米国オハイオ州クリーブランド美術館所蔵。



R100プロジェクト 第6弾
続・山王R~NEW STANDARD RENOVATION~

福岡の賃貸リノベーションのパイオニア 「山王マンション」。4室を4名のクリエイターがリノベーションし再生するプロジェクトです。近い未来5年後の賃貸不動産のSTANDARDを目指します。

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