パッケージ化されていないものを形にする。出会いによって成長する冷泉荘。

スペースRデザインと吉原住宅で協働経営をしている冷泉荘。賃貸不動産の長期経営の一つの形として、常に新しい道を切り開いています。そんな冷泉荘の管理人を勤める杉山さんに、部門の成り立ちやあゆみ、仕事のことなどを伺いました。

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インタビューした人


箱田あきの顔写真

箱田あき


箱田:ひとつの建物を部門にした「冷泉荘部門」は、どういった経緯で誕生したのでしょうか?

杉山:冷泉荘は2006年のプロジェクト開始当初から今と同じ様に、常駐管理人がいてレンタルスペースを運営するというスタイルでした。というのも、住居だと入居したら室内は見れなくなってしまいますが、情報発信のためにはいつでも気軽に訪れてもらえる場所が必要です。そこで、コンバージョンして事務所にした冷泉荘を広告塔として位置づけたのです。2010年4月からは「リノベーションミュージアム冷泉荘」というコンセプトを掲げ、より明確に、文化発信拠点を目指していきました。「部門」として位置付けたのもその頃です。僕は、ちょうどそのタイミングで入社し、冷泉荘担当になりました。

れいぜん荘ピクニックの写真
△年1~2回定期開催しているオープンアパートイベント「れいぜん荘ピクニック」

箱田:いきなりの大抜擢ですね!

杉山:学生時代、九州大学で音響設計を学んでいました。博士課程に進み、楽器の実験場所を探す中で紹介してもらったのが、天神パークビルでした。そこで代表の吉原さんと出会い、3年くらい楽器の実験をやらせてもらいながら、会社のイベントも手伝ったりという関係が続きました。その後、博士論文ができあがり吉原さんに報告をしにいった際に、就職の話になりインターンとして入ることになりました。
ちょうどそのとき、冷泉荘ピクニック第一回目を控えており、イベント準備の手伝いが必要ということで、入社後すぐに冷泉荘部門になりました。当時の管理人と入居者さんをまわりイベントの調整などをしました。実は、この時のイベント告知の目的で僕が作ったフライヤーが、いまの「月刊冷泉荘」のはじまりです。

月刊冷泉荘
△月1回発行している月刊冷泉荘。入居者さんによるコラムやイベント情報が載っている。

箱田:”会社の広告塔”としての冷泉荘の役割を教えてください

杉山:2010年当時は、リノベーション自体の知名度がまだありませんでした。なので、「ビルストックの活動をやりませんか」という啓発活動からしていく必要がありました。そのために、「自分たちでやっていく」「古い建物をもっと気軽に遊ぶ」という姿勢を示し、「いい建物を残していく」という文化を発信するための場所を冷泉荘に設定したのです。さらに、自分たちがそのような文化を作るための「仲間づくりの拠点」というのも大きな役割のひとつです。

冷泉荘夕涼み会
△冷泉荘屋上で開催した夕涼み会。入居者さんやそのお友達など約50名が参加。

箱田:レンタルスペースと管理人が、そのためのアイテムということですね

杉山:はい。もともと人が集まるキーポイントとして、レンタルスペースに可能性を感じていました。その場所で誰かと会話することで、より記憶に残ります。なので、僕が管理人になってからは、より「気軽に訪れる場所」「リアル店舗」的なものとしての常駐の管理人、まわりから冷泉荘に来てもらう仕掛けとしてレンタルスペース、という意識で運営をしています。おもしろいイベントをすると、ユニークな人たちが訪れ、そこから口コミでひろがり、入居者に繋がったりなどの効果が見込めます。

箱田:実際に来た人たちは、どのような反応をされますか?

杉山:視察や見学で来られた方には、基本的に、僕が普段いる事務局からスタートして屋上にあがり、また1階にもどるという、ぐるりと建物を一棟まわるような案内をしています。スタートは堅い雰囲気だったのが、最後に紹介する復元部屋あたりになると、だいぶリラックスした表情になり、楽しんでくれているのが伝わります。

冷泉荘裏外壁見学
△案内コースである冷泉荘の裏外壁。外壁改修工事にて「きれいにする」のではなく「そのままを保存する」ことに挑戦。

箱田:杉山さんの普段のお仕事を教えてください

杉山:朝出勤して、建物全体の掃除を念入りにやっています。途中で入居者さんと遭遇して話し込んで、昼過ぎにやっと掃除終了なんてこともあります。でもそのくらい掃除はコミュニケーションとして大切だと思っています。その後は、月刊冷泉荘の作成や視察対応、大きいのはレンタルスペース系の調整です。

冷泉荘のレンタルスペースって、他と比べると制約をほとんど設けていないんです。一般的に、所有者から賃貸してレンタルスペースを運営している場合が多いかと思うのですが、そうなると、原状回復などの問題がでてくるので、壁も両面テープ不可だったり、釘を打つのが不可だったり、あまり自由度をつくれません。一方、冷泉荘はオーナー自体が運営しているので、かなり自由度を高められるし、そこが強みでもあると思います。火災とか騒音とかの問題に繋がるもの以外は、やりたいことには要相談ということで対応しています。

ただ、あまり忙しそうにしていてもいけないので、できる限り暇そうにしています。仕事つめこみすぎちゃっても部屋に入りにくくなってしまうので。

杉山さん愛用のほうき
△杉山さん愛用のほうき

箱田:訪れた方に冷泉荘のことを伝える時、心がけていることはありますか?

杉山:いい話と大変な話のどちらともして「だからこそ、仲間づくりができている」ということが伝わるようにしています。僕はもちろんですが、冷泉荘の入居者さんとしても、大変さをどう面白がるかという姿勢です。やはり、楽にできるわけでもないし、儲かるからというわけでもなく、こういう動き自体が楽しいからやっているということは伝えています。「これが大変なんですけどね」とか。

自ら求めているものを出さずに、来るもの拒まず、という雰囲気をつくって、出てきたものをこっちも面白がって受け入れていく、ということを心がけています。冷泉荘も年々可能性が広がっていて、いろんな使い方をしてもらっています。どちらかというと教えてもらうというスタンスです。意見を言ってもらいやすい雰囲気作りがポイントのように思います。だから、冷泉荘自体はコンセプトを作っていないのです。そのときの集まった人によって、建物が変わっていく、流れに身を任せる感じです。

箱田:これまでに、具体的に変化したものはありますか?

杉山:レンタルスペースで演劇の利用が結構あるのですが、普通、レンタルスペースでは演劇自体NGなところがほとんどです。防音もありませんし、入居者さんにも影響がでます。でも、冷泉荘はレンタルスペース運用開始して、早々に音楽ライブでの利用がありまして。そのなかの出演者の一人が叫ぶ系の内容だったので、向いの消防署から警察に通報がいって、一発目から警察が来ました。もう、そういう運命なのかもしれません。スタート開始から、利用者や入居者さんによって作られていっているし、毎日がそんな感じです。

「月光亭」落語会
△レンタルスペースにて毎年年始に開かれる「月光亭」落語会

箱田:冷泉荘管理人のやりがいはなんでしょう?

杉山:本当にいろいろな方がいらっしゃるので、”なにがくるかよくわからない”というところが、面白いと思っています。とくにレンタルスペースは利用者やジャンルが固定化されず、常に新しい分野へひろがっています。大変さもありますが、それ自体が僕にとってはやりがいです。パッケージングされていないものを、どうやって形にしていくか。ある意味、最もスペースRデザインらしいと感じています。というのも、古い建物自体が、全く違うプロセスを歩んでいて、ケースごとの臨機応変な対応が必要です。その中でも一番癖が強いのが冷泉荘ではないでしょうか。バランスは難しいのですが、整えつつも、冷泉荘の賑やかしさをなくさないこと。これが、管理人の使命だと思っています。

冷泉荘築60年記念スリッパと杉山さん
△冷泉荘築60年記念スリッパと杉山さん

冷泉荘の本質的な魅力は、”来るもの拒まず”の、懐の広さ。

冷泉荘を訪れた方、誰もが感じる「居心地のよさ」や「ついつい長居しちゃう」という感覚。その正体は、古い建物がもつ寛容さやおおらかさに加え、杉山さんの「来るもの拒まず」というスタンスがにじみ出ていたのでした。築100年を目指して、型に捉われるのではなく、出会いや苦労さえも楽しむというのは、人生にも通じるところがあります。もっといろんな方々に冷泉荘を知ってもらいたいと、改めて感じました。

リノベーションミュージアム冷泉荘公式サイト
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