2024年7月19日(金)、国の文化審議会文化財分科会において、冷泉荘(福岡市博多区)が国登録有形文化財(建造物)として文部科学大臣に答申されました。官報告示を経て正式に登録される予定です。
その答申を記念して、『冷泉荘:国登録有形文化財フォーラム(「戦後RC 造民間集合住宅として全国初の登録の答申」報告会)』が開催されました。
フォーラム前半は冷泉荘管理人による見学ツアー、後半は活動・研究報告が行われ、不動産オーナー、建築やまちづくり関係者の方、学生さんなど、現地とオンラインあわせて70名以上もの方々にご参加いただきました。ありがとうございました。
吉原住宅有限会社 吉原より、「リノベーションミュージアム冷泉荘:取り組みの概要」についてお話させていただきました。
築100年を目指して、建物を大切に使っていく考え方を実践し続けていること
その結果、社会的価値と経済的価値が同調し、古いからこそ価値がある建物であることを確立できたことなど、
冷泉荘のこれまでの活動と、現在の取り組みについて報告いたしました。
「冷泉荘(旧八木アパート)の文化財としての評価」
所見をまとめていただいた橋田 竜兵先生(岡山大学 学術研究院環境生命自然科学学域 講師)より、冷泉荘の位置付けと設計的な特徴についてお話いただきました。
冷泉荘は戦後の都市の不燃化政策の中で建てられた民間賃貸住宅であり、設計者の方は福岡出身の著名な建築家だったこと
民間事業であった冷泉荘の設計的な特徴として、2つある階段室の登る方向がそれぞれ違う・上階にいくほどセットバックしていること(建築当時、斜線制限が設定されていない中で、周辺の日照に配慮したと考えられる)
建築当時の時代背景として効率を優先した設計とするのが一般的であった中、冷泉荘は別の思想のもとに設計されたことが読み取れるということが分かりました。民間事業としての設計思想が、建物の特徴を生み出したものと考えられます。
「冷泉荘(旧八木アパート)のコンテクスト:その場所性と時代性」
菊地 成朋 (九州大学名誉教授・特任研究者/NPO法人RAS研究会 理事長)より、都市景観の観点から冷泉荘の特質についてお話いただきました。
ヨーロッパでは集合住宅を都市の構成要素としてデザインする考え方が根付いており、都市計画と集合住宅の融合(外観や用途)がなされてきたが、その考え方が根付かなかった日本において、なぜ冷泉荘をこのような設計にしたのか簡単には説明できないこと
冷泉荘の外観が独特な形状なのは、前面道路が路地であることが関係しており、外観より居住性を優先していること
そしてそれはこの地域に対する住居機能面の提案であるということ
民間事業者によるアパートは、個々の地域の特性を読み取り、まちに対する個別的な提案を行う役割となっていたこと、その集積として現在現れている居住都市の形成に寄与したことが分かります。
そして、そのときどきのまちの状況に合わせた建物の使い方を試みている現在の吉原住宅の取り組みも、その「個別的な提案」の延長線上にあるのではと提言いただきました。単なる文化財というイメージだけではなく、人々の営みの集積としての民間アパートとして、これからもチャレンジをする存在であり続けることが大切だと教えていただきました。
そしてフォーラムの最後に「AI冷泉荘くん」が初お披露目されました。
AIを用いた冷泉荘の人格化プロジェクトです。(松山 舞氏(株式会社ゼロフラット取締役)と九州大 樅山氏にて制作中)
AIが考える、冷泉荘の未来の姿が発表されました。今後、より精度の高いシステムにできるよう検討が進む予定です。
冷泉荘の歴史を学び、その学びから冷泉荘の未来を想像した一日。
冷泉荘がまちにとって、私たちにとってどのような存在なのかを改めて認識させてもらえる時間となりました。また、一つの建物についてじっくり学び理解を深める時間はとても贅沢なものだと感じました。
そして冷泉荘だけでなく身の回りにあるほかの建物も、紐解くと、まだ知られていない建物特有の歴史や出来事があるはず。その建物がまちにとってどんな存在なのか、もしくはまだ知られていなかった新たな価値を、そこから自然と読み解くことができるのだと思います。
あらためて、これまで冷泉荘を見守っていただいた皆さま、当日お集りいただいた皆さま、本当にありがとうございました。11月には正式に文化財に登録される予定です。
これからもどうぞよろしくお願いします。
スペースRデザイン 新野