ストーリー
山王マンションが誕生した1967年、あたり一面は畑だったといいます。そんな中、エレベーターや電話交換室まで備わった6階建ての鉄筋コンクリートの建物は、大変珍しく、憧れの的だったのではないでしょうか。しかし、山王マンションも時代とともに老朽化、2000年頃には空室が目立ちはじめます。2003年、経営会社である吉原住宅は、今では福岡で初ともいわれる「賃貸リノベーション」に取り組みます。これが話題を呼び、その後空室が出るたびに1室1室とリノベーションを積み重ね、現在(2020年6月)では、リノベーション部屋の総数は31戸に。間取りもデザインテーマも全く異なる部屋たちは、「この部屋でどう暮らす?」と住まい手の創造力を掻き立ててくれます。
周辺環境の今
博多駅から歩いて約20分、山王マンションが位置する「博多駅南」をあらためて歩いてみました。まず感じた印象としては、「意外と何でもあるじゃん!!」なんとなくのイメージでしかありませんが住宅や工場の多いエリアで飲食店や買い物などに苦労しそうだと思っていました。ですがですが、ちょこっと歩いただけでいい雰囲気の小さな飲食店がたくさん。うどんにそばにラーメンにチャンポンに中華屋さんには担々麺。勝手に麺ロードと名付けたくなるほど山王マンションの前面道路は麺の宝庫です。
ここが麺ロード、5分も歩くとあらゆる麺に出会えます。
住宅街にひっそりとあるマスカル珈琲さん、自家焙煎の美味しいコーヒーをゆっくりと味わえます。
まちの八百屋さん。活気があります!
こちら山王公園。ランニングコースに遊具にベンチもあります。花見シーズンは大賑わい。
市民センターに体育館。260円でトレーニングルームをレンタルできるんだとか!
飲食店だけではなく八百屋さんに、スーパー、医院なんかも充実しており、生活するうえでのお困りごとはなさそう。その他にも、あると便利な郵便局までも100mほどですし、公園や体育館なんかもあったりして休日のほっと一息スポットまで。ちょこっと歩いただけで沢山のスポットを発掘できました。今回は平日のお昼でしたが、時間帯や休日などでまた違った顔がありそうです。
まさに「ビンテージ」な共用部
築52年の山王マンションの魅力といえば「残っていること」。正確には「残していること」が正しいのかもしれません。共用部を歩いてみると時の経過を感じさせるポイントが沢山あります。例えばきれいなポストがあるのに古いポストを残しています。今では同じようなポストは手に入りませんし、あったとしても時の経過の表現はできません。それはオーナー、管理会社が大切にしている価値観のひとつであり、それが「ビンテージ」を醸成しているように思います。リノベーションギャラリーの異名を持つ山王マンションの共用部をどうぞ。
暮らす?働く?空間の使い方を考えてみる
いまや「マンション」とひとくちに言っても、働く場として選択されることもしばしば。ましてや事業者さんや個人でお仕事をされる方が活発な福岡ではよく聞く話です。山王マンションも「働く場」として選んでいただくことが多くなってきました。事務所仕様でなくとも事務所となり得る。暮らしながら働く。拠点の一つとして。などなど様々な事由によって選択される「マンションで働くこと」空間としてどんな可能性があるのでしょうか。今回は山王マンション603号室でその可能性に迫ってみます。
一見シンプルなこのお部屋、ブルーのパーテーションがアクセントとなっています。想像することが好きな人にとってはワクワクが止まらないポイントです。
まずは「暮らす」目線で考えてみます。
30代前半独身男性Aさんの場合
地方出身の私は大学入学と同時に福岡へやってきました。学生の頃はこざこざした大名の雰囲気が大好きでバイトも遊びもあの周辺で済ませていました。家だって自転車で5分もあれば大名に行ける距離のtheワンルームマンション。アパレルショップでバイトしていたこともあり部屋の壁際には服が大量に積まれていましたね(笑)
大学卒業後は会社員としてスーツを着る仕事なんかもやりましたが肌に合わず、大好きな服に携わる仕事がしたいと思い上京。東京で2年間ショップに勤めた後、バイヤー職に転職しアメリカ西海岸の古着屋やマーケットで買い付けをしたり、蚤の市で雑貨や家具を選んだりしていました。31歳を迎えた昨年秋ごろですかね、自分のお店を持ちたいと思い福岡にもどることを決意。大名あたりでと考えていましたが、もうすこしゆっくりした場所でもいいかなと思って博多区某所でお店を開くことにしました。家を探していたころに偶然たどり着いたこのお部屋。シンプルなのにインパクトがある不思議な雰囲気に興味をもちました。普段古着を扱っている私の好みとは正直違うのですが、お店とは違ったイメージで暮らすのもいいなと思い、ここでの暮らしを決断しました。アコーディオンっていうんですかね、間仕切りは半分くらい締め切っています。中にはカリフォルニア郊外で買い付けたビンテージの身長よりちょっと低いくらいの棚を置いてTシャツを沢山積んでいます。あの頃壁際に置いていた当時のTシャツだってほとんど持ってますよ。あ、そうそう意外と使えるのが間仕切りの上のレール部分。ちょっとはハンガーもかけれるし、結婚式用に数本持ってるネクタイとか、あとカメラとかちょっとしたものをかけれるのは重宝していますね。この空間以外はほんとシンプルです。でっかいベッドとローテーブルがひとつ。仕事は立ってる時間が長いのでラグの上で座ってることが多いですよ。
次は「働く」目線で考えてみます。
20代後半女性イラストレーターBさんの場合
昔から読書が好きだった私は、沢山のジャンルの本を読んできました。高校生の時に叔父がフィリピンで買ってきた30ページくらいの大判のマガジン。これまで読んできた数々の本にはなかった色使いや文字のタッチにワクワクしたのを今でも覚えています。いつの間にか挿絵やレイアウトに注目するようになっており、こんな仕事がしたいと思うようになりました。
専門学校ではデザインの勉強をしながら、バイトして自分の将来のために頑張って貯金してました。卒業後はソフトや機材をそろえて個人事業主としてやっていくことにしましたが、なかなか仕事にはならず両親には心配かけたと思います。それから少しずつですが仕事をもらえるようになり、昨年から念願だった紙媒体の年間通しての仕事が決まりました。これまで筑紫野にある実家を出たことがなかった私はこれを機に福岡で働く拠点を探すことにしました。そんな中出会ったのがこのお部屋。部屋の名前が「CQ」、なんと私のお気に入りの映画の一つ「CQ~seek you」がコンセプトではありませんか。即決でしたよ!もともと週の半分くらいはここで寝泊まりも考えていたので、シャワールームや気の利いた業務用キッチンは私にとってはベストでした。seek youの世界観を表現したブルーの間仕切り部分はベッドを置いています。昔からですがなんか狭いとこが好きで囲まれている感じが落ち着くんですよ。窓際に大きなデスクを置いて疲れたらコーヒーを淹れて、たまにだらっとベッドに横になる、、一つの空間でこれができるのは最高です。今欲しいのは当時の「CQ」のポスターですね。この部屋に飾れば完璧だと思いませんか?
今回の妄想部屋はこちら
山王マンション603号室