「未来の自分たちのまちを考える」をテーマに開催しているビンテージビルカレッジ。 2022年3月度講座はスペースRデザイン創世期から共にリノベーションに取り組んできた信濃先生を講師に迎え開催しました。 信濃先生のお話しといえば実にマニアックな角度から「建築」「リノベーション」を読み解かれることがユニークで新しい価値観に触れることができるのですが、今回も信濃節がさく裂していました。今や九州産業大学で教鞭をとられている信濃先生が「現場」「体感」の重要性を何度も力説されており、まだまだ学問として発展途上であるリノベーションや不動産の可能性を感じました。机上では決して分からないこと、社会にでなければできない経験、こういった学生にとっての〝未知の世界”をまちや建物は提供できるという事実。そしてそれはまさにまちづくりに携わる大人が必要としているような「何にも変えることのできない価値」そのもののような気がしました。新しい価値観や一昔前の感覚とは全く違うものを見て聞いて育ったZ世代と呼ばれる若者がこれからどのようにまちを変えていくのか。新しい何かが起こる匂いがしてきました。
参加者の方々も世代、職種を超えて信濃先生のアイデンティティに触れようと様々な意見や見解で発言をされていたことが印象的です。 「DIYリノベ」というキーワードが実は曖昧なものであり最後まで定義できなかったり、定義しないことがリアル感を物語っているなど立場や経験、活動している場所に依って捉え方が曖昧になることが本講座のポイントの一つであったように思います。 その中でも信濃先生が手掛けられた山王マンションの「時代蘇生」はまさにリノベーションとは何たるかをある角度から定義されている象徴的なプロジェクトであることを再認識しました。本来は自然界にあった一本の木、それはやがて時の経過なのか自然の脅威なのか、はたまた作為的なのかは分かりませんが枝を落とします。その枝は時を超えて雨風にさらされ誰にとっても何物でもないただの物体となりました。そこからどうやってか流木となり、2007年に信濃先生のもとへ「ゴミ」としてたどり着きます。そのゴミは福岡市博多区の山王マンション407号室のリノベーションの象徴として、アイコンとして空間の一等地に据えられその空間の印象を支配し続けています。まさに価値や立場、印象の大転換です。このプロジェクト一つとっても色んな要素が混在しており、簡単には語れないのです。ここがリノベーションの面白くて難しくて魅力的な部分なのでしょうか。信濃先生の頭の中や当時のプロジェクトを横で見ていたくなりました。
2時間という制約の中で信濃先生のユニークな価値観に触れることができる貴重な体験に参加者のみなさんの満足度も高かったことでしょう。信濃先生の講義を日常的に聞くことができる学生さんが羨ましく感じました。 「未来の自分たちのまちを考える」体験をされたい方、次回のビンテージビルカレッジをお待ちください。(ホンダ)
●山王マンション407号室「時代蘇生」
https://www.space-r.net/rent/sannou/407