2025年5月31日、「有明沿岸+市民アライアンス」第2回シンポジウム/九州DIYリノベWEEK2025 春のシンポジウムが開催されました。
当日は、不動産オーナーやまちづくりに関わるプレイヤー、研究者、学生など約100名が参加。熊本・福岡の5地域による活動報告と専門家の講演を通じて、「これからの暮らし」を考える場となりました。
今回のシンポジウムは、九州各地で空き家や空きビルの再生に取り組んでいる「九州DIYリノベWEEK」の参加チームのうち、有明沿岸に位置する荒尾市・長洲町・玉名市・合志市・大牟田市の5チームが連携して立ち上げた広域ネットワーク「有明沿岸+市民アライアンス」によって企画されたものです。
目的は「コミュニティアセット(地域資源)としての空き家や遊休不動産の可能性」を、講演や活動報告を通じて多様な立場から捉え直し、これからの暮らしのあり方を共に考えること。講演者として森田 芳朗氏(東京工芸大学教授)、田島 則行氏(千葉工業大学教授)をお迎えしたシンポジウム当日の概要をレポートします。
開会のご挨拶(有明沿岸⁺市民アライアンス代表理事 中村光成 氏、荒尾市長 浅田敏彦氏)
地域医療とまちづくりの親和性や、有明沿岸エリアにおける集積とネットワークの可能性について言及がありました。
ご講演(森田先生・田島先生)
森田先生(東京工芸大学教授)
空き家活用は、住まいや職能、関係性、新しい用途の組み込みなど、多様な要素が組み合わさって成立していること。また、「DIY賃貸」や「シン旦那」という不動産と人の新しい関係性が生まれていること。現代の「旦那」は、不動産オーナーだけではなく、人と建物とつなぐ不動産業者もその立場になりうることができ、だからこそ誰もが「当事者性」を持つまちづくりを行っていくことが重要である、というお話をいただきました。
田島先生(千葉工業大学教授)
まちづくり活動の実践と研究を通じて、コミュニティアセット構築の8つのステップや持続的な仕組みづくりの重要性を指摘。「内発的発展」をキーワードに、地域資源を活かした再生の考え方が示されました。昔は家庭内や地域コミュニティの中で完結していたいろいろなものごとが現代ではできなくなり、それらが社会活動やボランティアになっている現状があります。みんなが自分のまちで生きていくために、そういったNPOや団体こそ活動資金を生み出す仕組みづくりが重要であると、海外の事例を通じてお話いただきました。
「有明沿岸+市民アライアンス」5名による活動報告
それぞれの地域で実践されている空き家活用やコミュニティづくりの取組みが報告されました。
荒尾地域の医療とコミュニティづくりの親和性(中村さん〈熊本県荒尾市〉一般社団法人のあそびlabo. )
地域金融機関の建物を活用した拠点化(上田さん〈熊本県合志市〉株式会社グランド・デザインアドバイザーズ )
空き家活用のご相談から始まる新しいつながり(徳永さん〈熊本県長洲町〉ながすヨダレ会)
地域住民と共につくるリノベーションの現場(村田さん〈熊本県玉名市〉株式会社村田建築設計所)
公共施設との協働や行政との関係性づくり(冨山さん〈福岡県大牟田市〉大牟田ビンテージのまち株式会社)
ディスカッション(コミュニティアセットと有明アライアンスの動きについて)
田島先生からは、「有明沿岸のまちづくりの実践は、まさにコミュニティアセットの進化形」と、有明アライアンスの取り組みが理論的にも意義深い動きであることを示すコメントをいただきました。人は本能的にわくわくやつながりを求めていて、人と人との関係性を育みながら場を再生していくプロセスそのものが、これからのまちの豊かさをつくるモデルとなることをお話いただきました。
また、シンポジウムのまとめとしてイルジ先生(熊本県立大学 環境共生学部環境共生学科 准教授)より、「市民から生まれるまちづくり」「距離が近く、動きやすい地域性」といった九州エリアならではの強みを活かしながら、一人一人の個性が発揮されるような取り組みが、今後ますます楽しみとの言葉をいただきました。
まちや立場を超えた協働が、まさにここから生まれていることを感じる時間となりました。
今回のシンポジウムでは、「人と建物の関係性」「市民主体の動き」「仕組みと自由度のバランス」といったテーマが浮かび上がりました。
印象に残ったのは、中央ではなく“周縁”だからこそできる対話と実践の可能性。市民、行政、専門家、それぞれの立場を越えて近い距離感で語り合えるこの地域の特性が、これからのまちを豊かにしていく大切な要素になると感じます。
今回のシンポジウムは、その一端を理論と実践の両面から見つめ直す貴重な機会となりました。
有明沿岸+市民アライアンスの動きから、自分たちのまちで豊かに生きていく未来の姿を学びたいと思います。
スペースRデザイン 新野
今回のシンポジウム(オンライン配信版)を動画で記録しています。
視聴をご希望の方がいらっしゃいましたら、下記までメールにてお問合せください。
yj@tenjinpark.com
(「九州DIYリノベWEEK2025 春のシンポジウム」動画視聴希望、等メールにご記載ください。)