山王マンション301号室「Transformation」。信濃康博教授(九州産業大学)が設計されたこのお部屋で、建築の既成概念を覆す実験が進んでいます。
住まい手が間取りに合わせるのではなく、住まい方によって間取りが姿を変え、128通りの暮らしがあるお部屋。その可能性を探るため、信濃教授の研究室のみなさんと住まい方を考えるワークショップ「住まい方コンぺ」を開催しました。
この春入社したばかりの新入社員の井上も一緒に参加。先月まで大学生だった井上の新鮮な目線での感想も交えながら、住まい方コンペの一日をレポートします。
設計士の思考プロセスをアルゴリズム化する
コンペ前半は、信濃教授に301号室の解説をしていただきました。
「何をつくるか」よりも「どう使うか」。この問いに答えるため、信濃教授は間取りを3つの要素で体系化しました。
- 領域:空間を「居室」と「非居室」に分け、水回りの有無で定義します。
- 配列:玄関からつづく動線が「非居室(廊下)」か「居室(直接部屋へ)」かで分類します。
- 境界:「全間仕切(壁)」と「緩間仕切(ブラインド・カーテン)」を使い分けます。
301号室は、玄関から居室(土間空間)へダイレクトに繋がる性質を持ち、カーテンやバーチカルブラインドという「緩間仕切」によって、住居(H)・住居兼事務所(HO)・事務所(SO)という3つの用途を住まい手によって切り替えることが可能です。
■お部屋の詳細についてはこちら
理論から間取りを考える #301号室リノベーション完成【山王R2023リノベーション研究会】
https://www.space-r.net/blog/building/sannou/277564
(信濃先生のレクチャーを受けて)
学生時代、「脱nLDK」という考え方を学んだことがあります。かつての日本の住宅が、1つの大きな空間をふすまや障子で区切ることで、家族構成やライフスタイルの変化に柔軟に対応してきたように、「nLDK」という枠組みをいったん取り払うことで、現代の家づくりをもっと自由なものにしていけるのではないかというものだったと記憶しています。
今回の講義を通し、その柔軟性が「賃貸」において、さらに面白い広がりを見せることに気づかされました。持ち家における「家族の変化」にとどまらず、数年ごとに全くの他人が入れ替わる賃貸という条件でこそ、その自由さが発揮されます。住む人が、自分の働き方や暮らし方に合わせて、最も使いやすいように空間の仕切り方を変えることができるこの寛大さを、大変魅力的に感じました。
加えて、今回の講義で特に印象的だったのは、その空間の自由を、個人のセンスのみに頼るのではなく、明確な論理として昇華されている点でした。これまでの間取りの改変においては、設計者の経験や感性に頼りがちであったのに対し、信濃先生は、空間を「領域×同線配列×境界」という要素に分解したうえで、間仕切りの程度や組み合わせにより、多様な間取りを理論的に作り出せるようになっています。
それは、デザイナーの自己表現ではなく、実際の使われ方や入居率といったマーケットの実態に基づくアプローチになります。単なる「自由」ではなく、「理論に基づいた自由」であり、賃貸という枠組みの中で、賃貸という枠組のなかで、心地よい空間を構築しやすくなる、魅力的な手法です。
(井上)
学生たちが描いた住まい方
ワークショップでは、この45㎡の空間を自分たちのライフスタイルや趣味に合わせて再定義しました。またペルソナを設定し、SOHO利用時の使い方についても考えていただきました。
(学生さんたちの発表より)
【住居利用】
1. 趣味全開「バイク・自転車と眠る家」
広い土間に愛車を置き、就寝時にはベッドから愛車を眺める、趣味人にはたまらないロマン溢れる構成です。
2. 編み物用の「こもり」の空間
椅子ではなく、床に座る目線で空間を捉え直します。部屋の隅を「編み物・手芸」などの集中スペースとし、ミニマムながら豊かな時間を提案しました。
【SOHO利用】
1. 「アパレル物販×住居」
脱衣所を「来客用の試着室」として開放。土間に設置した可動棚をショップ(公)と私室(私)の境界線にする実務的なSOHOスタイルです。
2. 「動画クリエイター×住居」
白壁を活かしてグリーンバックを設置。カーテン一枚で、生活感を隠して即座にYouTube撮影などの配信スタジオへ切り替えます。
特にSOHO利用ではカーテンを活用し、応接室と作業部屋、仕事空間と住居空間など積極的に空間が仕切られていました。また土間が自転車置き場、ショップ、撮影場所、趣味の空間などに想定され、この部屋のアイデンティティとなっていました。
(学生さんの住まい方提案を受けて)
少し前までは、私も彼らと同じ側の席に座っていました。だからこそ、お題を与えられて短い時間でアイディアを形にし、魅力的にプレゼンテーションする学生さんたちの瞬発力と柔軟な発想には感心させられるばかりでした。
実を言うと私は、「自分ならどう住むか」という具体的な居住空間へのイメージがなかなか湧かずにいました。しかし、彼らの自由なプレゼンを聞いているうちに、私の中にも「こう住んでみたい」というアイディアが少しずつ湧いてくるようになり、気づけば純粋にその空間づくりを楽しんでいました。
中でも特に興味深かったのが、部屋内の土間部分の使い方です。多くの学生さんが、この土間に対し、趣味の空間や生活に彩りを与えるステージのようなイメージをされていました。あの絶妙な広さがそうさせるのか、あるいはフローリングとの段差という緩間仕切がそうさせるのか、この「土間」に住む人の個性が色濃く表れるということが、とても新鮮な発見でした。
(井上)
この部屋を完成させるのは、あなたです
信濃教授のアルゴリズムに基づいた設計は、将来的にAIによる自動設計や、マーケットに最適化した収益物件への応用も期待されています。しかし、301号室において最も重要なのは「住まい手による完成」です。
今回のワークショップでも改めて確認できましたが、緩間仕切りを活用し、住まい手に合わせた多様な空間を生み出すことが出来ます。この部屋は近々募集予定です。
301号室は、単なる賃貸物件ではありません。あなたのクリエイティビティを試す「実験場」です。あなたなら、ここでどんな物語を始めますか?
スペースRデザイン 仲條
■山王R2023リノベーション研究会のブログ記事一覧はこちら
https://www.space-r.net/blog/topics/278233






