山王マンション301号室「Transformation」のリノベーション工事が完成しました。2003年福岡初の賃貸リノベーションに取り組んだ山王マンション(1967年築)にておこなわれた10年ぶりのリノベーションプロジェクト「山王R2023リノベーション研究会」のうちの一室。山王マンションのリノベーションを初期から手掛けられてきた信濃先生が設計されました。(もう一室の608号室はスペースRデザインの吉村が担当しています。)
以下、信濃先生によるリノベーションレクチャーの内容を記します。
これまでの山王マンションのリノベーションの歴史を通して、時代の変化とともに変化してきた暮らし方の潮流のようなものが見えてきました。それは、「SOHO使いの文化」。もともと居住用を想定してつくってきたリノベーション部屋ですが、住居兼事務所として仕事場を設ける入居者さんがとても多かったのです。
そしてリノベーションの間取りをSOHOの視点から信濃先生が分類すると、「領域・配列・境界」という指標となる要素が抽出され、間取りをタイプ別に類型化できることが明らかになりました。
領域:居室か、非居室か
配列:玄関から居室に入るのか、非居室に入るのか、水回りの有無等
境界:全間仕切か、緩間仕切か
(※日本建築学会技術報告集/29 巻 (2023) 72 号に論文が掲載されています。)
これら3つの要素を間取りの指標として考えることで、これまで設計者の頭の中でおこなわれてきた設計過程を言語化し、理論として捉えることが可能となりました。
この理論を301号室でどのように実践しているのでしょうか。
まず、SOHO使いを前提としたときに、水回りを一か所にまとめることで、使える居室空間をより広く取れるように計画。
「領域」として居室空間を6つに分類し、それらの境界(動線)を考えます。
「配列」としては、玄関から廊下を通り、居室空間へアクセスする動線としました。その廊下は土間も含むことで、パブリック性の高い場として来客対応などに利用しやすいように設定。
「境界」は緩間仕切りを用いて空間分けすることで、入居者さんの使い方次第で各領域をどの程度仕切って使うかを決めることができるようにしました。例えば、バーチカルブラインドを閉めると土間とフローリング部分が廊下風となりますが、ブラインドを開けるとワンフロア的な空間へ変化します。
また、一か所にまとめた水回りは居室空間からは隠せるように、間仕切りを設定。間仕切壁はシンメトリーな斜め壁とすることで、日光による陰影を室内に生み出しています。
居室空間をどのように使うかは、入居者さん次第。いろんな使い方の可能性を生むような設計となっています。入居後、どんな風に各領域を仕切って使用されるのかがとても気になるところです。
信濃先生が考えるリノベーションの目的は、あくまで建物を尊重し寿命まで使い切ること。リノベーションはそのための一手段です。今回、理論から間取りを考える信濃先生の研究と実践から、山王マンションの新たなリノベーションの歴史が生み出されました。信濃先生、今回も新たな知見をいただきありがとうございます。
時代とともに空間に求められるものが変化していく中で、建物も変化していかなければなりません。山王マンションでは、これまでのさまざまな取り組みを通して「変化を柔軟に受け入れる土壌」が育まれてきました。そしてこれからも多様な人との関わりを通じて、建物にとって必要な変化を生み出しながら受容し、進化していくのだと思います。100年経営を目指し、これからも山王マンションのあゆみは続きます。
スペースRデザイン 新野